2013年ベスト、本

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性懲りもなくまた数の話からになるのだけれども、2013年は全部で61冊の本を読んだ。2012年が惨憺たるもので28冊だけだったところから比べると、大いなる飛躍の年と言っても過言ではないというか過言でしかないのだけど、せめて50冊は読みたいと思っていたのでよかった(しかしいったい何が)。

2013年は本当にラテンアメリカ一辺倒であり、特に4月にボラーニョの『通話』を読んで以降は、「小説はラテンアメリカ以外禁止!」という謎のルールに従って、黙々とラテンアメリカ文学を読んでいった。61冊中、小説は37冊、ラテンアメリカ関係(小説以外にも歴史本とかルポ、ルポっていうんだっけ、そういうのも入れて)は38冊だった。

それにしても、それにしてもというかそれにしてもは関係ないにしても、今日ふと思ったのだけど、いま誰かに「どんな本が好きなんですか?」と問われたときに、今の私の頭にパッと浮かぶ名前というのが、ボラーニョ、ゼーバルト、ピンチョン、というところになって、というところになって、ん、待てよ、となったのだった。どれも近年コレクションが出てきている作家じゃないか!驚くほどに、出版社の目論見にまんまと乗せられている、という図になっていた。おそろしい。しかし出版社さまさまだ。去年は白水社、水声社、現代企画室にとてもお世話になった。ということで今年よかった本10冊。読んだ順番。

 

 

トマス・ピンチョン/LAヴァイス

一年前で、もはや内容はまるで覚えていないのだけど、とにかく面白がりながら読んだ記憶があり、かつて書いた感想文を読んだら「ずいぶん面白かったんだなあ」ということが判明したので。

 

岡田利規/遡行 変形していくための演劇論

『地面と床』は見ることが叶わなかったが、相変わらず岡田利規は私にとってヒーローみたいな存在で、なんかこう、ただただ、大好きなんです、とお伝えしたい限り。これを読む前に読んだ「ゼロコストハウス」もそうとうにアクチュアルで刺激的だった。

 

チャールズ・ウィルフォード/危険なやつら

お客さんに借りて読んだやつ。たしか、契約のあり方がクールで、グルーヴィーで、すごく格好良かったのだと思う。

 

ロベルト・ボラーニョ/通話

ボラーニョはこれでも『売女の人殺し』でもどちらでもいいし、『2666』は残念ながら読み終えたのが今年なので外す感じなのだけど、でもやっぱりこっちで、どの短編も本当によかったけれど、とにかく「センシニ」の、あの奇跡のような時間。珍しく読みながら涙を流す、ということをした小説だった。コレクションは始まったばかり、まだまだ読める、と思うと本当にうれしい。

 

カルロス・バルマセーダ/ブエノスアイレス食堂

『2666』を読んだら本当にそうだなと思うけれど、種が明かされていくときの退屈さというのはなんなんだろう、ということを思い知らされた小説。要は終わりにいけばいくほどつまらなくなって、しらけていくのだけど、そこまでのダイナミックな文章は本当にエキサイティングでうなった。それはもうすごかった。

 

セルヒオ・ラミレス/ただ影だけ

ニカラグアに、そして歴史というものにやたらに興味が湧いたという点で。小説それ自体は、途中まではどこかそう乗り切れないところがあったのだけど、後半は怒涛ののめり込み方をしたのだけど、だからトータルでどうだったのだろうとは思うのだけど、印象としてはものすごく強く残っている。サンディニスタ!ととりあえず言いたくなるし、「サンディニスタ!」の興奮だけじゃまるで収まらないんだよな、という複雑さもまた、とか言いたくなるんだけどそれって小説についてじゃなくてニカラグアの歴史についてなんだよなと。でもこれはソモサ側の視点から描いているから、その歴史の複雑さというか一筋縄ではいかない感じがより強くわかって、いい。

 

マリオ・バルガス=リョサ/都会と犬ども

リョサはあまりにこなれた手つきで、そんなに整然とやらなくても、と思ってしまうのだけど、デビュー作なのかなこれは、忘れたけど、勢いがあふれている感じでこの作品は喜びながら読んだ。重層的な語りの、どのエピソードも魅力的だったし、演習の場面の躍動とか素晴らしかった。少年の物語っていうのはやっぱりいい。

 

フアン・ホセ・サエール/孤児

これも思弁的なところに流れていく最後の方は別にいいかなと思ったのだけど、インディオの観察記というふうに読んでいると、こんなに面白いものはなかった。肉体があって、ちゃんと運動があった。

 

ガブリエル・ガルシア=マルケス/誘拐の知らせ

コロンビアの麻薬カルテルえげつなー、というのでものすごい面白かった。恵文社で買って、京都で読んでいて、泊まっていたゲストハウスが思い出される。(それは読書にとって重要で豊かなことだ)

 

アドルフォ・ビオイ=カサーレス/パウリーナの思い出に

どの短編もべらぼうに面白かった。「精緻さとデタラメがとても仲良く共存している印象」とかつて書いた感想にあったけれど、本当にそんな感じだった。

 

エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー/機械との競争

これを読んでからだったか、読んだためだったか、一時期このトピックのことをずっと考えている時期があった。なんかこう、やっぱり生きる上で労働って大切な部分なので、労働の将来をいろいろと考えた。ためになったというか、取っ掛かりとしてとても有用だった。

 

鈴木涼美/「AV女優」の社会学

人が「語ること」を獲得していくさまがほとんど感動的だったし、節々で見られる著者のたくましい言葉に見惚れた。力強い本だった。

 

フアン・パブロ・ビジャロボス/巣窟の祭典

『誘拐の知らせ』のコロンビアのカルテルが衰退したあとの、メキシコのカルテルの麻薬王の息子のひとり語り。チャーミングで獰猛で、そして飛んで。もう一編もすごくよかった。若い作家だそうで、他の作品もぜひ読みたい作家となった。

 

アレハンドロ・サンブラ/盆栽/木々の私生活

これも若い作家で、盆栽がとにかくよかった。これも読みながら泣いた記憶がある。と思ったら「泣きそうになった」だった。本を読むこと、何かを書くこと。切実で美しかった。本当にたまらなく。

 

ロベルト・ボラーニョ/売女の人殺し

どの短編も本当に面白く。特にサッカーのやつ。ボラーニョはサッカーまで見事に描ききるのか、とびっくり。

 

鈴木了二/建築映画 マテリアル・サスペンス

映画論的な本で、久しぶりに心底興奮しながら読んだ。友だちと話したときに「だけどすでに確固たるものとしていいとされている作家しか取り上げられていない点が」という言われ方があるということを聞いたけれども、建築家なんだからいいじゃん!と思いました。やはり論じる対象を本当に好きであるということがこちらに伝わってくるものは本当によくて、嘘だろそれ!という言い切りっぷりも最高にチャーミングだった。そして感動的な黒沢清との対談。いいもの読んだ。

 

内沼晋太郎/本の逆襲

11月ぐらいからだったか、本屋のことばかり考えていた矢先に発売を知り買った。底抜けに前向きな姿勢が気持ちよく、共感しますというかすごくかっこいいですわーと。そのあと内沼さん関連の記事をたくさん読んだ/読んでいる。いつか内沼さんのトークイベントとか聞きに行ってみたい。

 

 

ということで10にしようと思っていたら挙げていったら17になったので、絞る必要もない気がしたのでベスト17。ベスト、と問われたらボラーニョの『通話』の「センシニ」だろうか。これはもう本当に。あとはサンブラの「盆栽」、『マテリアル・サスペンス』。

 

2014年になったので、『2666』を読み終え、年末に買っていた佐々木敦の『シチュエーションズ』を読み終え、今は取っておいた保坂和志の『未明の闘争』を読んでいる。

今年は思うところあって、ということでさっそく今年ルールをたったいま策定したのだけど、今年は初めて読むものとかつて読んですごく良かったものを交互に読んでいくというルールに相成りました。半分は約束されたも同然だけど、全体を通して今年も本とともに豊かな時間を過ごしたい。


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