7月

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ソリティアをやっていたので夕食後に家を出てコンビニで往復はがきを買った。それがこの日2度目の外出だった。1度目は昼過ぎの買い物しにスーパーに行ったそれだった。スーパーもコンビニも徒歩5分といったところなので、行ってみたらとても近かった。

 

今、暇にかまける格好で長い小説にでも手を出そうかというところで(本当だったら『ボヴァリー夫人』再読に向かいたいのだが、山と積まれたダンボールの中にあり取ることができない)、セルバンテスの『ドン・キホーテ』を読み始めているところなのだけれども、さて、ドン・キホーテでも読むか、とベッドに腰かけると気がついたらソリティアをやっている、何回も何回もやってしまう、という状況に陥りがちで、なかなか読書がはかどらなかった。ソリティアは大学時代から大好きなゲームで、やり始めたら止まらない、というのは身にしみて知っていたのだけどつい最近インストールしてしまって、たいへん無駄な時間をそこに費やしている。ウェイスティングマイタイムだなー、などとひとりごちながら、トランプを、ここぞというところを血眼になって探しながら、タップ&タップ&タップ…

 

そういったわけで『ドン・キホーテ』に関しては当初はなかなか進まないどころかページが開かれづらい状況にあったため、「実入りの3/4が食費に消えるってドン・キホーテのエンゲル係数バカ高いなあ」ぐらいの冒頭2ページのところで止まっていたのだけど、ここに来て昨日電車に乗った影響もあろうが、ちょこちょこと進んでくれて、何やらきな臭い香りが漂ってきた。

そのきな臭さとはまた別の話だが、こんな記述があった。

 

「兄弟のサンチョよ」と、町を遠望しながらドン・キホーテが言った、「(…)しかし、これだけは注意しておくが、たとえわしがこの世にまたとない危険にさらされることになっても、助太刀しようとしてお前の刀に手をかけたりするでないぞ。もっとも、わしに刃向かう連中が卑しい身分のごろつきであることがはっきり見てとれれば話は別で、その時はお前もわしに加勢してかまわない。ところが相手がれっきとした騎士の場合には、お前が騎士に叙任されるまでは、わしの助太刀をすることはできない。それは騎士道の掟によって禁じられた、不正行為なのだ。」

「ご心配には及びませんよ、旦那様」と、サンチョが応じた。「そのお言いつけなら、必ず守ってみせますから。だいいち、おいらは生来おだやかな男で、騒々しいことや争いごとに巻きこまれるのが大嫌いときてるんです。もっとも、いざわが身を守るということになったら、そんな掟なんぞ気にかけるつもりはありませんや。だってそうでしょう、神様のおつくりになった掟であろうと人様のおつくりになった掟であろうと、傷つけようとして襲いかかってくる相手からわが身を守ることは、ちゃんと認めているはずだからね」

 

二人は自衛権について話しているらしかった。

そのあとにドン・キホーテとサンチョは一台の馬車と何頭かの騾馬と鉢合わせた。乗っているのは貴婦人や修道士たちで、なんていうことのない人たちだったがドン・キホーテはこう言った。

 

「拙者の目に狂いがなければ、今度の一件こそ、かつて人の目にふれたあらゆる冒険をしのぐ、最も有名な冒険になるはずじゃ。と申すのも、あれに見える黒衣の連中は、かどわかしてきたどこかの姫君を馬車に乗せて連れ去らんとする妖術師たちに違いない、いや疑いもなくそうだからじゃ。ここはどうあっても、拙者の全力を尽くして、この悪事をくいとめねばならぬ」

 

サンチョが主人の狂乱を目の当たりにし「こりゃあ、風車以上にやっかいなことになりかねないぞ」と言うのももっともで、確たる根拠もなしにドン・キホーテは攻撃を開始するということだった。そのみっともない戦いでサンチョ・パンサもまた、巻き添えを食らって失神したりしたのだった。

 

「機知に富んだ郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ 第ニ部」はそんなふうにして進んでいくのだった。今のところとても面白いが、全部で何冊あるのだろうか、6冊ぐらいだろうか、それだけあると思うとこの調子でずっと続いていくのはしんどいというか笑いが乾いていって喉がイガイガしていきそうで、どういうことにしようかと思っているところだけどひとまずは読んでいるし楽しい。1605年の作品とのことだけれども、とても新鮮な感覚で読んでいる。たとえばこんな記述もある。

 

「ここのところはソリティアをやるか本を読むかぐらいしかないということはないのだけど総じて時間はたっぷりあって、人生でいちばん時間がある日々を今過ごしているところだけど、時間があれば有意義に使えるかといえばそういうものでもないらしく、全体として不毛だ。

私は生来のなまけものなのだろうなと感じている。なんでもできる、なんにもやらない。そんな日々で、RSSに流れてくるはてブのホットエントリーを全部消費してしまうくらいだし(もちろん読むものは選んでいるが)、ソリティアは何度やっても飽きないし、ドトールに先日行ったら昼飯時で、喫煙できる部屋で、隣に座った女は座ると同時にタブレットだかポータブルプレイヤーだかを出してドラマか映画を再生し始めた。

それを置いて流しながら、しっかり見るかと思いきや基本的にはスマホの画面を見ていた。家のテレビ鑑賞じゃないんだから!と横目で見ながら私は驚嘆して、いつだってどこでだって学ぶこと、知れることはあるものだ、という思いを一段と強めたのだった」と私は金麦を一口飲みながら言った、「借入のために提出する創業計画書を作り続けている。ワードやパワポやエクセルであれやこれやをし続けることは私の精神を落ち着かせるらしかった。作業、というものが好きなのだと思う。

カタカタと、意味があるのかないのかわからない文言や数字を打ち続け、正しいレイアウトを探しながら時間が着々と過ぎていく。その作業感を私は愛でる。そのため少し改善されてきた就寝・起床時間がまたおかしな方に傾いていく。

そうしているうちにすごい創業計画書および資金調達計画書ができた。「前向きにいこうよ、このままじゃなんか暗いよ」と老年の方が私にアドバイスをしてくださったので、役所におけるその相談の時間を私はすごく愉快なものとして過ごしているし老年の方も好きなのだが、それに応じる格好で売上の予想を上方もいいところという感じで修正していったら、驚いたことに10年後ぐらいには3000万円の貯金ができていることになった。

エクセルの自動計算がその数字を弾き出した朝4時ごろのその瞬間、私は「3000万円!」と叫んだため母が起きた。「今日家にいるんだったら夕飯作ってくれない?」と母は言った、私は「わかりました」とLINEにて返信した。昨日調味料やスパイス等を買ってきたのを見ていたところだったので、これは母は作るのが面倒くさかったのではなく、暇そうにしている息子に暇つぶしの材料を与えようとしたのだろうと私はわかった。その気遣いは優しく、そしてどこか悲しいような気もしたし悲しいものではないような気もした。

 

そこで私は今日の昼は買い物をしにスーパーに出かけ、トマトソース(今回はタイムとローズマリーを入れてみた)を作った。それから物の本で知ったスペイン風のピザみたいなやつだというコカというものを作ってみた。イーストを用いることが初めての経験だったせいか、過発酵というのか、わけのわからない、デロデロの生地ができてしまいとても失敗だとすぐに悟った。トマトソースとナスとチーズを乗っけて焼いてバジルをちらして食ったらおいしかったが、おかずパンといった様相だった。「こんなものを作りたかったのではない」と私はひとりごちた。

夕飯はそれとは関係なく、ガパオ(久しぶりに食べたくなった)と、セロリ等の中華スープと、水菜とカマンベールチーズ等のゴマとバルサミコ酢和えと、ナスとトマトソースの上にチーズやって焼いたやつ、となった(コカは冷凍した)。コンセプトも何もない、統一性も何もない夕食だったが、一つ一つは美味しかった。ナスとトマトソースのやつは不満が残った。久しぶりにまとまって料理をしていると、やはり作業は楽しい、という感覚だった。好ましい認識だった。より美味しいものを作りたい。

 

埼玉に住み始めてから目が悪くなった。てきめんに悪くなったように感じる。日々悪くなっている気もする。テレビ画面に表示される番組表が目を細めないと見られなくなったため、日ハム戦がどれなのか探しづらい。今日はオールスターゲームだった。マツダオールスターゲーム2014だ。広島のブラッドリー・ロス・エルドレッド選手がMVPを獲得した。」

 

と、昨夜書いたあとに煙草を吸いにベランダに出て戻って煙草を吸っているあいだに気になり始めたことなどを調べたりしているうちに書いたこと自体を忘れておりドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャの話の続きをいくらか読んでからいくらかの睡眠を取った。寝起き10分から運転をして、今は強い雨が降っている。


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