最近見た映画(『魚影の群れ』『こうのとり、たちずさんで』『ゴーン・ベイビー・ゴーン』…)

cinema


・十二人の怒れる男(シドニー・ルメット、1957年、アメリカ)

10年ぶりぐらいの再見。裁判関係のものが見たいような気がして。久しぶりに見たけどやはり抜群に面白かった。ヘンリー・フォンダを始め、対立役のリー・J・コッブや眼鏡の小男やおじいちゃんの、表情以上に声が印象に残る。

 

・ゴーン・ベイビー・ゴーン(ベン・アフレック、2007年、アメリカ)

先日友人のブログで知ってデニス・レヘインの『ムーンライト・マイル』を読み、その流れでこれも見てみた。こちらはそのシリーズの前作の『愛しき者はすべて去りゆく』が原作。

ベン・アフレック!ベン・アフレックというとなぜかジョシュ・ハートネットの顔が浮かんでしまう程度にベン・アフレックのことは知らず、有名なハリウッドスターというぐらいの認識でいたのだけど、こんなにも映画らしいというか映画だろうこれはという映画を撮ってしまうとは、とびっくり。
冒頭の町の色々な人たちを映す一連のショットからして、なんだかもう、何かが明らかに始まることを見る者に告げてくるようで素晴らしく、
まあいいや。こちらの感想を読んでいただければいいような気がする。

『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(ベン・アフレック) | For Man and a Prayer

しかしまあ、『ムーンライト・マイル』を読んでいたのでどういう結末になるかはわかってはいたのだけど、こんなにも過酷な選択がおこなわれていたのかと、物語のその辛さに結構なところおののいた。

 

・魚影の群れ(相米慎二、1983年、日本)

『ションベンライダー』と『台風クラブ』のあいだの作品。子供の映画のあいだに置かれた大人たちの映画。

冒頭のショットから驚かされる。波立つ青白い海が画面いっぱいに広がり、左にパンされていって、ズームアウト、すると砂浜、足あとらしきものを見るける、それを追いつづけ、砂浜はけっこうな勾配の坂になり、男と女がそこをあがっている、追って、追って、と思ったらカメラの位置がぐーっと一気に上昇し、砂の山と空と座る男女、夏目雅子が走りだし向こうに降りていく、佐藤浩市が別の経路でやはり走り下りる、追って、ズームイン、小屋の前に止まる、女が男と誘惑し、男がそれに乗り、小屋の中に入っていく、というのを1ショットで、ああ、もう、相米、という感じですごかった。轟々と鳴る風と波の音を切り裂くように二人が声高に話すその話し声もまたとても。

そんな充実しきったああ相米というシーンがいくつもあってなんとも素晴らしい。緒形拳の漁師っぷりにも目を見張る。でかいマグロをぐさりやり噴き出る血の赤がいい。佐藤浩市の覚悟になりきらない振る舞いがまたいい。夏目雅子の奔放から悄然の転調がいい。夜中の漁港の明滅する光がすごくいい。

 

・こうのとり、たちずさんで(テオ・アンゲロプロス、1991年、ギリシャ/フランス/スイス/イタリア)

『霧の中の風景』に続き、シネマ・クレールにて追悼特集第2弾。今回も入りは30人ぐらい。普段の上映からすると格段に多い。どこからこの人たちは来るのだろうか。とは言えやはり年齢層は高いというか若い人ほとんど見当たらないのだけど。

なんといっても川を、国境を挟んでおこなわれる結婚の儀礼のシーンがすごい。いやもうやっぱりどのシーンもすごい。

こんなにも国境を見せつけられると、国境っていったいなんなのか、難民って、亡命ってどうやるのか、というか歴史的政治的にどんな問題があるのかそもそも知らず、そういったところを知りたくなった。なんか本読もう。

 

・甘い罠(クロード・シャブロル、2000年、フランス)

全編を通して映しだされるイザベル・ユペールの無感情ここに極まれるという表情が最強すぎる。その表情は一度たりとも崩れることなく、しかし最後にはその目から涙を流させるだろう。あそこから涙が流れうるのかと、はっとさせられた。私は悪に長けているというセリフがまたいい。自分の性格の悪さを嘆く前に彼女の生き様を確認したい。

 

・ミルク(ガス・ヴァン・サント、2008年、アメリカ)

別段、それを知ったから何と言うわけでは当然ないのだけど、だけど、だけどね、と予告編を見て思った。ドキュメント映画『ハーヴェイ・ミルク』の予告編、ハーヴェイが殺されたと、そして犯人は誰だと、涙目で告げる女性の姿が映される。こちとら見始めて5分もすればのちにハーヴェイが殺されることは知るのだからそれはいいのだけど、犯人まで知らされてしまうと「えー」という気分にならざるを得なかった。

しかし、やっぱりその、なんでこれを見たかったかといえばショーン・ペンが見たかったからなのだけど、ショーン・ペンという俳優はやっぱりすごくすごかった。あのちょっとなよっとした手振り、喜びにいっぱいになる笑顔、力強い演説、銃を向けられたときの動き、どれをとっても素晴らしかった。

 

・それでもボクはやってない(周防正行、2007年、日本)

『十二人』に続き法廷ものが見たくて。冤罪理不尽すぎワロタ、という感じだった。私はもう電車に乗る生活はないので電車で痴漢の嫌疑を掛けられる機会もなさそうなのでいいのだけど、満員電車で通勤する男子の諸君におかれては本当に気をつけてください、手の位置等に気をつけましょう、と思った。加瀬亮の演技はものすごくよかった。

Wikipediaで今知ったのだけど監督の周防正行は立教出身で蓮實重彦に薫陶を受けた若者の一人で、黒沢清や万田邦敏と交流して、さらには『神田川淫乱戦争』の助監督まで務め、デビュー作は小津へのオマージュだったとか。『それでもボクはやってない』しか知らないととても意外に思える事実だった。


« »