戦火の馬(スティーブン・スピルバーグ、2011年、アメリカ)

cinema

先日ジョン・フォードの『アパッチ砦』を見て、馬とはなんとまあ!と鮮烈に思い、それと同時にもはや現代ではこんなホースアクションを見ることはできないのだろう、ものすごいスピードで大量に駆けていく馬から地に落ちて砂塵の中に消えていく、あるいは馬も含めてバッタバッタと倒れてみせる、そんな光景は現代では撮ることはできないのだろうな、どれだけ流麗なカーアクションが可能であっても、と漠然と思っていたのだけど、2010年代の現代でそれを実現できてしまう監督がどうやら一人だけいたらしく、その名はスティーブン・スピルバーグと言うらしい。

なんだかもう、すべてが偉大だった。朝焼けの高原をなめていく空撮で始まって、何から何までが偉大で荘厳だった。ヤヌス・カミンスキーのカメラはこんなに美しくていいのだろうかというほどにどこまでも美しく対象を映し出していた。村々は光にあふれ、水はいつでも鏡面としてその素晴らしい景色を複製して、なぜかタルコフスキーを想起させたおびただしい数の死体が転がる、あるいは水たまりと枯れた木でなる戦場は青灰色に沈み、銃弾や大砲はどこまでも重く、そして風は風として、雨は雨として正しく捉えられ、そして何よりも馬。走り、止まり、歩き、いななく馬の肢体は力強くどこまでも官能的だった。それにしても、シネマスコープの画面は馬と人間の邂逅を収めるために発明されたのではないかという放言すら吐きたくなるいくつかの場面の素晴らしさったらなかった。

こんなピュアな、ピュアという言葉が適切なものかはよくわからないけれども動物と景色が主役となるようなこんな映画がありえたのかと、ただただ驚きおののいた。素晴らしい映画体験だった。

一つあるとすれば、馬のトレーナーであるボビー・ロヴグレンはスピルバーグの次ぐらいにクレジットされるべきだったのではないかと。にわかには我が目が見たものを信じることのできないような馬たちの傑出した運動を導いた彼にはもっと脚光があたってもいいのではないだろうか。信じがたいことに、ここで演じた馬たちには重大な怪我もストレスもなかったらしい。撮影につきっきりで同行したアメリカ動物愛護協会みたいなところのバーバラ・カーさんのお墨付きとのことである。


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