アウトロー(クリストファー・マッカリー、2012年、アメリカ)@TOHOシネマズ岡南
2013年2月8日
カーアクションが大変に素晴らしいと何かで見ていたので、帰りの運転は妙に気が大きくならないように気をつけようと、映画館に向かいながら思っていた。トム・クルーズが出ている映画という以外のことはほぼ知らずに見にいったせいか、冒頭のシーンで初めて狙撃手の顔が映ったときには「あ、違うのね。ずいぶんお膳立てしたけど、思わせぶりね」とびっくりした。勝手に、冒頭のショットの連鎖から、狙撃手はトム・クルーズであり、今回のトム・クルーズは『コラテラル』でのような殺し屋めいた悪役なのかなと憶断していたためだ。そしてこういった錯誤はこのあと何度か繰り返される。
狙撃する犯人の顔は確かに見た。犯人が捕まった。取調室でその犯人の顔を見たとき、「あ、あの人ヒゲ剃ったらこんな卵みたいな顔になるのか、そうかそうか」と勝手に納得した。そしてそれは思い違いだった。射撃場での老人も、悪玉の老人と勝手に見間違えて、勝手なサスペンスを場面に導入していた。背後から撃たれるんじゃないか、トム、と。
そして全体としても錯誤であり、激しいアクション映画かと勝手に思っていたら、退役軍人のトム・クルーズはアクションを立派にこなしつつも、どちらかといえば名探偵といった役回りだった。トム・クルーズがスラスラと謎の核心に迫っていく姿を見ながら、単純に気持ちがよかった。良質の推理映画を見ている感覚だった。
まあ、それにしても、ほんと、面白かった。「アウトロー」という邦題には違和感があるし、いくつかのセリフで発されるのはドリフターだし、でも日本国においてドリフターとしてしまうとどうしてもお笑いの方向に見られてしまうから、というところの腐心なんだろうけれども、そんな腐心をするぐらいだったら潔く原題通りの『ジャック・リーチャー』でよかったのに、と思う。どうせシリーズ化しそうだし、それが一番いいんじゃないかと。トム・クルーズなんだから、タイトル関係なく客入るでしょうと。
ところで、いったんトム・クルーズと表記したあとはクルーズと言っておけばいいのだろうか。ウディ・アレンをウディと呼ぶようにトムと呼ぶのはいささか憚れるような気がするけれど、一方でクルーズというのも、クルージングみたいでしっくりこない。トム・クルーズといちいち中黒点を打つ以外に手はないように思えるのだけれども、どうなのか。そして今回ウィキペディアを通じて初めて知ったのだけど、トム・クルーズの本名はトーマス・クルーズ・メイポーザー4世なのか。
しかしそれにしても、大変に面白かったのだけれども、黒幕の正体がああいうたぐいのものだとなんとなく興冷めしてしまうところがあった。もっと私怨とかのほうが興奮したかというとそれもわからないのだけど、というか、謎なんて解けないほうがいいのかもしれないとも思ってしまったりもするのだけど。
黒人の警察官の姿がとてもよかった。あのこじんまり感、ベビーフェイス感は稀有だと思う。
また、弁護士の女性もとてもよかった。モーテルの部屋でニットの上から初めて知らされた巨乳が、そのあとのシーンから露骨な谷間の表現へと変わる姿が、すばらしかった。どこか、カトリーヌ・ドヌーヴのようなボリューム感のあるゴージャスな方だった。うまく言葉にはならないが、この人とトム・クルーズのラブシーンはないだろうと思っていたけれど、実際なかった。その「ない」感じっていったいなんなんだろう。とてもきれいな人だった。
なんかよくわからない書き方になっているのだけど、全体にチャーミングな印象で、推理ものとしてもアクションものとしてもとてもエキサイティングで、今年見た新作映画では今のところ一番面白かったことは間違いなかった。
なお、監督のクリストファー・マッカリーは『ミッション・インポッシブル』の次作を監督するらしい。